切迫早産の原因や特徴、診断は?過ごし方や予防のためのポイント

妊娠・出産の基礎知識

  • 切迫早産

2023/05/11

妊娠中に起こる可能性のあるトラブルのひとつが、切迫早産です。切迫とは「非常に差し迫っている」という意味であり、切迫早産とは「早産の一歩手前」という状態です。切迫早産と診断されたら、早産を可能な限り防いで、正期産のタイミングまでおなかの中に赤ちゃんをとどめるために、適切な治療を行う必要があります。

ここでは、切迫早産の原因や特徴、治療方法のほか、切迫早産になった場合の過ごし方のポイントを解説します。併せて、切迫早産を予防するために気をつけたいことなどもご紹介しますので、参考にしてください。

切迫早産は、早産になりかけている状態

切迫早産とは、正期産よりも早い時期に赤ちゃんが生まれてしまいそうな、早産になりかけている状態のことをいいます。
妊娠37週0日から41週6日までの出産を正期産といい、この時期の出産が母子共に最もリスクが低いとされています。この正期産より前の、妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産が早産です。

そして、切迫早産とは、早産になる危険性が高いと考えられる状態、言い換えるなら、早産になりかかっている状態のこと。子宮の出口(子宮口)が開きかかっていて、赤ちゃんが生まれそうになっており、かろうじておなかの中にとどまっているような状態です。
なお、妊娠22週未満(赤ちゃんが胎内以外では生存できないとされる週数)で妊娠が終わってしまうことは流産といい、流産になる危険性が高い状態のことは切迫流産と呼ばれます。

早産になるとどうなるの?

全妊娠の約5%で早産は起こり、感染や体質に起因することが多いといわれています。
早産で生まれた赤ちゃんは臓器の発達が不十分なため、頭蓋内出血や未熟児網膜症(眼球の後部で網膜血管が異常に増殖する病気)、脳性麻痺などを起こす危険性があるほか、抵抗力も弱いので感染症にもかかりやすくなります。赤ちゃんが妊娠30週未満で生まれた場合は、特に注意が必要です。

また、早産で生まれた赤ちゃんの生存率は、おなかの中にいた週数が大きく影響します。出産週数で見ると、妊娠22~23週で生まれた赤ちゃんの生存率は66.1%ですが、24~25週では86.5%、26~27週では94.0%、28~29週では96.7%、30~31週では97.5%と、おなかの中にいる期間が長いほど、赤ちゃんの生存率は高くなります。

切迫早産の代表的な症状や兆候

切迫早産の代表的な症状や兆候は「おなかの張りや痛み」「性器出血」「破水」の3つです。次のような症状が現れた場合は切迫早産の可能性があるため、かかりつけの産婦人科を受診しましょう。

おなかの張りや痛み

切迫早産の症状として、おなかの張りや生理痛のような痛み、腰痛などが挙げられます。人によっては、おなかがキューッとするような痛みを感じることもあります。
横になって休んでも張りや痛みが治まらない、張りや痛みが規則的または頻繁に続く、痛みがだんだん強くなるといった場合は、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡してください。

性器出血

妊娠中の出血は、切迫早産の兆候かもしれません。かかりつけの産婦人科を受診し、出血の様子や量などを伝えてください。

破水

破水とは、おなかの赤ちゃんを包んでいる卵膜が破れて、羊水が外に流れ出すことです。破水すると細菌に感染するリスクなどがあるため、すぐに受診が必要です。「破水なのか尿漏れなのか判断できない」という場合も、産婦人科で診断を受けてください。

切迫早産の診断はどのように行われる?

切迫早産の診断は、問診や内診、検査によって総合的に行われます。おなかの張りや痛み、性器出血、破水といった症状があった場合は、その状況をきちんと医師に伝えましょう。

また、検査では、経腟超音波検査やノンストレステストが行われます。ノンストレステストとは、おなかの赤ちゃんの心拍数と子宮収縮の状態を調べる検査です。
このような診察や検査によって、子宮の収縮がある、子宮口が開きかけている、子宮頸管が短くなっているなどの症状が認められた場合は、切迫早産と診断されます。

切迫早産の原因

切迫早産の原因には、下記のようなものが挙げられます。ただし、切迫早産には、必ずしもはっきりとした原因があるとは限りません。明確な原因がなくても切迫早産になってしまうこともあります。

絨毛膜羊膜炎

「絨毛膜(じゅうもうまく)」や「羊膜」は、赤ちゃんを包んでいる卵膜のことです。絨毛膜羊膜炎とは、細菌に感染して卵膜に炎症が起こっている状態です。絨毛膜羊膜炎が起こると、子宮収縮や破水を招いたり、子宮口が開きやすくなったりして、切迫早産の危険性が高まります。

子宮頸管無力症

子宮頸管無力症(しきゅうけいかんむりょくしょう)とは、赤ちゃんが子宮から出るときの通り道である子宮頸管が、ゆるんで開いてきてしまう状態のことです。本来、子宮頸管は、臨月になるまで赤ちゃんが出てこないように固く閉じている必要があります。しかし、子宮頸管無力症になると、気づかないうちに子宮口が開いてしまい、切迫早産や早産につながることがあります。
一般的にはおなかの張りや痛み、出血などの自覚症状はなく、妊婦健診で見つかることも多いです。

妊娠高血圧症候群

妊娠中に高血圧症を発症することを、妊娠高血圧症候群といいます。妊娠高血圧症候群も、切迫早産や早産につながることがあります。

多胎妊娠

双子や三つ子などの多胎(たたい)妊娠では、赤ちゃんが1人の場合よりも子宮が大きくなり、子宮収縮が起こりやすくなるため、切迫早産や早産につながる可能性が高くなります。

子宮の奇形

子宮が本来とは異なる形状になっている状態を子宮奇形といいます。例えば、子宮が左右2つに分離している重複子宮(じゅうふくしきゅう)や、子宮の中が2つに分かれている双角子宮(そうかくしきゅう)などがあります。子宮の形が原因で子宮が十分に大きくなれず切迫早産となることがあります。

円錐切除術を受けたことがある場合

子宮頸がんや、その前がん病変の治療のために、子宮頸部を円錐状に切除する「円錐(えんすい)切除術」という手術を受けたことがある場合は、早産になりやすい傾向があります。過去に円錐切除術を受けたことがある方は、妊娠時に必ず医師に伝えましょう。

高齢出産(35歳以上の出産)

35歳で初めての出産をすることを、高齢出産といいます。高齢出産は、それ以前の年齢での出産よりも早産のリスクが高くなります。

喫煙

妊娠中に喫煙すると、早産だけでなく、低出生体重や胎児発育遅延などにつながるリスクも高くなります。妊娠を考えている場合は、妊活中からパートナー共々、喫煙を中止することが推奨されます。

早産になりやすい方とは?

早産になってしまう原因はさまざまですが、特に次のような方は、早産になりやすいとされています。順に確認しておきましょう。

前回の妊娠で早産だった

これまでの妊娠で早産になったことがある方は、そうでない方に比べて早産になりやすいといわれています。前回が早産だったからといって必ず次も早産になるとは限りませんが、前回早産であった場合は、妊娠初期に医師にその旨伝えておきましょう。

子宮頸部円錐切除術を行ったことがある

子宮頸部円錐切除術(しきゅうけいぶえんすいせつじょじゅつ)とは、子宮頸がんや子宮頸部異形成といった子宮頸がんの前がん病変に対して行う手術で、病変部を含めた子宮頸部を円錐状に切り取ります。この手術を行うと子宮頸管が短くなるため、早産になるリスクが高くなります。

前回の妊娠で子宮頸管無力症と診断された

過去に子宮頸管無力症と診断された場合も、早産のリスクが高いので注意が必要です。子宮頸管無力症の場合は、必要に応じて子宮頸管をしばる手術を行うこともあります。

お産の回数が多い方

3回目、4回目(またはそれ以上)の出産など、お産の回数が多い方は、切迫早産になりやすい傾向があります。1回目や2回目の出産では、早産や切迫早産にならなかった場合でも注意が必要です。

切迫早産の治療とは?

切迫早産になった場合は、赤ちゃんがおなかの中で成長する期間をできるだけ延ばすために、治療を行う必要があります。では、具体的にはどのような治療や対処が行われるのでしょうか。治療方法について見ていきましょう。

安静

切迫早産の治療は安静が基本です。切迫早産の状況によって、自宅で安静にして外来診療で様子を見ることもあれば、入院が必要になるケースもあります。
なお、早産が避けられないと判断されたときは、まえもって新生児集中治療室(NICU)がある病院へ転院になる場合もあります。

子宮収縮抑制剤

子宮収縮抑制薬(張り止め)は、子宮の収縮を抑え、子宮口が開かないようにするために使われます。点滴によって持続的に子宮収縮抑制剤を投与する必要がある場合は、入院が必要となります。

抗菌薬

細菌による感染が疑われる場合や破水した場合は、感染を抑えるために抗菌薬が使われることもあります。

子宮頸管縫縮術

子宮頸管縫縮術(しきゅうけいかんほうしゅくじゅつ)とは、赤ちゃんが早く生まれてきてしまわないように子宮頸管をしばる手術のことです。
子宮頸管は、赤ちゃんが子宮から出るときの通り道にあたります。この子宮頸管が開くと早産につながってしまうため、状況に応じて子宮頸管縫縮術を行います。

早産が避けられないと考えられるとき、投与されることのあるステロイド

早産が避けられない可能性が高いと判断された場合は、週数によっては出産前にステロイドが投与されることがあります。これは、切迫早産の治療というよりは、生まれた後の赤ちゃんの状態を良くする(胎児の肺を成熟させる)ためのものです。

切迫早産と診断され、自宅安静の場合はどう過ごす?

切迫早産と診断されても、入院が必要なかった場合、どのように過ごせばいいのか戸惑ってしまう方もいるかもしれません。切迫早産で自宅安静となったときは、次の点に気をつけて過ごしましょう。

外出はなるべく控え、自宅で安静が基本

前述したように、切迫早産の治療は安静が基本です。たとえ入院の必要がなくても、切迫早産と診断されたら、自宅で安静にして過ごしてください。
外出はできるだけ控え、家の中で体を休ませます。横になっていても、座った姿勢でも、おなかが張らなければどちらでも構いません。

無理をしない

パートナーをはじめ家族などに最大限サポートしてもらい、無理をしないことが肝心です。料理や洗濯、掃除などは、家族に代わってもらうか、必要最低限にとどめます。食事はレトルトやデリバリーを活用するのもひとつの方法。仕事をしている場合は、診断書を職場に提出して休みをとってください。

また、上の子供がいる場合、子供のお世話や遊びの相手などで、ママはつい無理をしてしまいがちです。パートナーや両親、親戚のほか、保育園の一時保育やファミリーサポート、民間のベビーシッターなど、最大限周りを頼ることを考えましょう。

便秘気味の方は医師に相談を

切迫早産でも、通常の排便なら問題ありません。ただ、トイレで強くいきむのは避けたほうがいいので、できるだけ便秘にならないように食事面で配慮したり、便秘薬を処方してもらったりしましょう。便秘ぎみの方は、かかりつけの産婦人科医に相談してください。

あえて早産にさせるのは、どんな場合?

これまで解説してきたように、切迫早産が起こったときには、正期産のタイミングまでできるだけ早産を回避する治療を行います。
しかし、「妊娠高血圧症候群」や「常位胎盤早期剥離」「胎児機能不全」など、それ以上の妊娠継続がママや赤ちゃんにとってリスクとなる場合は、あえて早産させることもあります。

妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症候群が重症化すると、母子共に非常に危険な状態になる可能性があります。妊娠継続がママや赤ちゃんにとって危険であると判断された場合は、正期産の時期を待たずに分娩になります。

常位胎盤早期剥離

常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)とは、出産の前に胎盤の一部またはすべてが子宮からはがれてしまうことです。ママや赤ちゃんの命に関わるため、一刻も早く出産を行う必要があります。

胎児機能不全

胎児機能不全とは、酸素不足などでおなかの赤ちゃんの元気がなくなってくる状態のことです。胎児機能不全によって、子宮内では赤ちゃんが危険と判断される場合は、早産での出産となります。

切迫早産で入院したら費用が心配…使える保険や制度は?

切迫早産で入院になったときの気がかりのひとつが、入院にかかる費用ではないでしょうか。
切迫早産で入院した場合、入院基本料や検査、投薬、手術代は健康保険が適用されるので、自己負担分は、基本的にはかかった費用の3割です。ただし、個室や少人数部屋などを利用したときに発生する差額ベッド代は、全額自己負担となります。

また、医療機関の窓口で支払う医療費(保険適用外の費用を除く)が自己負担限度額を超えた場合は、高額療養費制度を利用すれば、超えた分の金額が後から払い戻されます。自己負担限度額は所得によって異なるので、あらかじめ確認しておくと安心です。
さらに、加入している医療保険によっては、切迫早産による入院や手術などで給付金が受け取れる場合があります。保障内容をチェックし、該当する場合は忘れずに請求手続きを行いましょう。

切迫早産を予防・早期発見するために気をつけたいことは?

早産のリスクを避けるには、切迫早産の予防と早期発見が大切です。ただし、普通に生活していても切迫早産を防げないこともあります。
次のことに気をつけつつ、もし切迫早産になってしまったとしても、自分を責める必要はないのです。

妊婦健診を受ける

妊娠中は、必ず妊婦健診を受けましょう。切迫早産の兆候は、自覚症状があるとは限りません。しかし、定期的に妊婦健診を受けていれば、自分ではわからない異常にもいち早く気づき、適切な治療につなげられる可能性が高まります。

妊娠中の性行為ではコンドームの使用を

精液の中には、子宮頸管をやわらかくする成分が含まれています。切迫早産と同時に性感染症を防ぐためにも、性行為の際には必ずコンドームを使用してください。

もし切迫早産と診断されたら、安静が第一

切迫早産とは、早産になりかかっている状態のことです。切迫早産になった場合は、正期産のタイミングまで、赤ちゃんがおなかの中にいられる期間をできるだけ延ばす治療が行われます。おなかの張りや痛み、性器出血、破水といった切迫早産の兆候が見られたときには、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡してください。

また、切迫早産の治療は安静が第一です。医師から「自宅で安静にしてください」という指示があったら、くれぐれも家事などは無理せず、出産のときまでゆったりと過ごすようにしましょう。

監修

稲葉 可奈子 先生

産婦人科専門医・医学博士

京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。双子を含む4児の母。産婦人科での診療のかたわら、病気の予防や性教育、女性のヘルスケアなど、生きていく上で必要な知識や正確な医療情報とリテラシー、育児情報などを、SNS・メディア・企業研修などを通して効果的に発信することに努めている。

産婦人科専門医・医学博士

京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。双子を含む4児の母。産婦人科での診療のかたわら、病気の予防や性教育、女性のヘルスケアなど、生きていく上で必要な知識や正確な医療情報とリテラシー、育児情報などを、SNS・メディア・企業研修などを通して効果的に発信することに努めている。

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