新生児
2023/05/11
赤ちゃんが誕生すると、その一挙手一投足が愛おしく、新鮮に感じられるのではないでしょうか。0歳のうちにしか見られない表情やしぐさも多く、見飽きることがないと感じる方も多いはず。一般的に生後4ヵ月頃までに消失する「モロー反射」も、赤ちゃんの代表的な動きのひとつです。
ここでは、赤ちゃん独特の動きであるモロー反射について、わかりやすく解説します。
目次
「プレパパ・プレママ教室」「両親学級」などで、赤ちゃんには原始反射があると教わったママ・パパも、中にはいるかもしれません。
原始反射は、赤ちゃんに生まれつき備わっている無意識の反応のことで、何らかの刺激によって反射的に現れる赤ちゃん特有の動きです。原始反射があるのは赤ちゃんが外の世界に適応するためでもあり、赤ちゃんの発達の基盤を作り、脳や神経が発達して自分の意思で動けるようになるとともに消失します。
生まれてすぐに見られるモロー反射も、原始反射のひとつです。モロー反射は、外からの刺激に反応して赤ちゃんが手足をビクッと動かし、バンザイをするような格好でゆっくり大きく腕を広げ、その後何かにしがみつくような姿勢になるのが特徴です。しがみつくように見えるのは、近くの物につかまって危険を回避しようとするからだともいわれています。
なお、モロー反射が終わる頃に首がすわり、手の反射が消えたらハイハイが始まるのが一般的。そして、足にまつわる反射が消えるのを待ってあんよができるようになるといったように、そのほかの原始反射も成長の進み具合とリンクして消失していきます。
モロー反射が現れるのは、例えば下記に挙げるような場面です。初めてモロー反射を見たママやパパは少し驚くかもしれませんが、心配しすぎず見守りましょう。
<赤ちゃんにモロー反射が現れる主なシチュエーション>
・体がぐらっと大きく傾いたとき
・急に大きな音が聞こえたとき
・明るい光が一気に差し込んできたとき
モロー反射が見られなくなってくるのは、だいたい生後4ヵ月頃です。モロー反射が長く続くと、「脳神経や運動機能に異常があるのでは?」と心配になる方もいるかもしれませんが、その子によって成長のスピードがさまざまであるように、モロー反射の出方や消失の時期にも個人差がありますから、あまり神経質になる必要はありません。産後すぐや乳幼児健診の際にモロー反射の有無などはチェックされますし、基本的には赤ちゃんを見守っていれば大丈夫。
発達の進みなどに不安があれば、生まれた産院で行われる1ヵ月健診をはじめ、保健所などで行われる3ヵ月健診等を活用して、医師や看護師、助産師に質問してみるといいでしょう。
ここからは、モロー反射以外の原始反射について解説します。前述した足にまつわる反射など、一通り確認しておきましょう。
自動歩行といって、赤ちゃんの両脇の下を支えて、足の裏を床などの平面につけると、左右の足を交互に出してまるで歩いているような動きが見られる反射もあります。生まれてから1〜2ヵ月程で消失することが多いでしょう。
自動歩行が消失すると、おすわりやハイハイができるようになり、1歳頃には多くの赤ちゃんが歩行できるように。そして、2~3歳では徐々に走ることも上達していきます。
赤ちゃんが広げた手のひらに大人が指を1本のせると、赤ちゃんがぎゅっと手のひらを握って指を包み込むようにするのが把握反射です。生まれてすぐに見られる反射で、とてもかわいらしいため、写真を撮って残す方もいるのではないでしょうか。足の裏でも同じように反応し、足の指を折り曲げる動きが見られます。
なお、手の把握反射は生後6ヵ月頃、足の把握反射は生後12ヵ月頃を目安に消えていくことが多いでしょう。
吸てつ反射は、赤ちゃんが、口の中に入った物に強く吸いつく動きのことを指します。唇にふれた物の方向や反対側に首を回す探索反射、口に近づいた物を加えたりおっぱいを飲み込んだりする嚥下(えんか)反射と併せて「哺乳反射」と呼ばれ、赤ちゃんがおっぱいを吸うために欠かせない反射といえます。
赤ちゃんの足の裏の外側をかかとからつま先に向かって強めにこすると、その刺激で足の親指が足の甲側に反り、残りの指が扇のように開くことをバビンスキー反射といいます。生後18ヵ月程で消えることが多いですが、24ヵ月くらいまで続くこともあります。
非対称性緊張性頸反射(ひたいしょうせいきんちょうせいけいはんしゃ)では、赤ちゃんを仰向けに寝かせ、首を右か左のどちらかに向けると、顔が向いた方向の腕と足を伸ばし、反対側の手足を曲げます。生まれてすぐから見られ、生後4〜6ヵ月程で消失することが多いでしょう。アーチェリーの選手のような姿を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。
モロー反射そのものは、病気ではありません。しかし、動きがよく似ている疾患や、モロー反射の出方によってわかる疾病もあります。ここでは、そうした疾病についてご紹介しましょう。
点頭てんかんは、一般的に1歳未満の乳児に発症リスクがあるといわれる疾患で、主に重篤な脳障害を背景にして起こる難治性のてんかんです。イギリスのウエスト医師が我が子の症状をもとに発表したことから、「ウエスト症候群」と呼ばれることも。
点頭てんかんが起きると、突然頭部に力が入ってうなずくような動きをしたり、体を折ってお辞儀をしたり、両腕をビクッとさせて振り上げたりします。個々の発作は数秒ですが、反復されるようになります。
こうした動きは、言葉にするとモロー反射に似ているようにも思えますが、モロー反射とはあくまでも異なるもの。点頭てんかんの発作はほんの数秒間で治まって、その後赤ちゃんは何事もなかったかのように過ごすものの、その瞬間を目撃したパパ・ママは「明らかにおかしい」と判断できるはずです。
点頭てんかんは予後不良の危険性のある疾患といわれ、放置するとてんかん性脳症によって発達の遅滞や退行が起きるため、すみやかに専門の病院を受診して発作を止め、発達を促すような対処を行うことが大切です。
赤ちゃんは狭い産道を通って生まれてきますが、このときに首から手に向かう神経が引っ張られ、神経が損傷することがあります。これを腕神経叢麻痺(わんしんけいそうまひ)といいます。ママの骨盤が狭いときや、大きめの赤ちゃんの場合は、このような分娩麻痺が起こる可能性があるのです。
腕神経叢麻痺が起きると、赤ちゃんは腕を動かすことができなかったり、腕の動きに麻痺が出たり、片腕がうまく動かなかったりします。
なお、本来左右対象に赤ちゃんの腕が上がるモロー反射が左右で非対称に現れるために、麻痺に気づくこともあるでしょう。多くの場合、生後間もないうちに自然に回復しますが、経過観察をしながら手術が必要になることもあるほか、重症の場合は機能障害が残ることもあります。
分娩時、赤ちゃんの体の一部が産道に引っ掛かったり、首が過度に伸ばされたり、首の周囲が圧迫されたりすることによって、鎖骨が折れることがあります。吸引分娩(吸引器で赤ちゃんの頭を引っ張って取り出すこと)や鉗子分娩(かんしぶんべん:金属製の道具で赤ちゃんの頭を挟み、引っ張って取り出すこと)などの緊急処置で発生することがあるほか、ママの産道や赤ちゃんの大きさ次第で起こる可能性があります。
赤ちゃんが痛がるような様子を見せなくても、モロー反射が左右非対称に現れることで、判明することもあるでしょう(モロー反射では通常、両手が同じようにばんざいして持ち上がります)。多くは生後間もないうちに自然と回復しますが、場合によっては手術を必要とすることもあります。
脳性麻痺とは、おなかの中にいるあいだから、生後4週間までのあいだに発生した脳への損傷によって引き起こされる運動機能の障害を指します。胎児期、あるいは生後1ヵ月までのあいだに脳性麻痺を発症していても、重度の場合を除いてはなかなか気づかないことがあります。
脳性麻痺の場合、1歳前後になっても原始反射が消失せず、運動機能の発達にも遅れが出ているかもしれません。また、2歳頃までに、定期健診によって脳性麻痺と診断されることもあります。
核黄疸は、妊娠中にママの血液中のビリルビン(赤血球中の黄色い色素のこと)値が高くなった結果、赤ちゃんの脳の損傷を招く病気です。核黄疸が起きると、生後すぐに「元気がない」「筋肉の緊張が弱い」「ミルクを飲む力が弱い」といった症状が見られます。
モロー反射がまったくない、モロー反射らしきものはあるが極めて弱いといった場合は、核黄疸の初期症状とも重なるため、念のため病院を受診してください。核黄疸になると治療が難しく、脳性麻痺を起こした場合は早期診断による早期のリハビリ介入が予後のカギを握っています。
ここまで、モロー反射が赤ちゃんの成長の一過程であることを解説してきました。特に初めての育児では、親のほうがモロー反射に驚いてしまったり、赤ちゃんが刺激に反応してビクッとするのがかわいそうな気がしたりして、モロー反射が出ないようにと思考を巡らせることもあるかもしれません。
実際、インターネットで検索すると、さまざまなモロー反射への対処法が出てきます。例えば、次のようなものです。
<よくあるモロー反射の対処法>
・生活音をあまり立てないようにする
・お昼寝用の布団を温めておく
・(抱っこから布団に下ろすときなど)赤ちゃんの首や体の角度が大きく変わらないように扱う
・冷暖房が赤ちゃんに直撃しないようにする
・おくるみなどで体を包む
・赤ちゃんが安心して過ごせるよう、こまめにスキンシップをとる
ただし、モロー反射はあくまでも自然な反応で、成長の中で起こる通常の動き。モロー反射によって赤ちゃんが困ることもありません。親が先回りして止めたり、過度に心配したりする必要はないのです。明確なエビデンスのない自己流の対応はむしろ危険を招くことがあるため、安易に行わないようにするのが賢明でしょう。
もし、ママやパパが赤ちゃんのモロー反射について少しでも不安があるなら、そのときは自己判断せず、早めにかかりつけ医を受診することが大切です。
モロー反射は、赤ちゃんに見られる原始反射のひとつで、生まれつき備わっている正常な反応です。成長の過程でどの子にも見られるものですから、基本的には心配せず、見守っていれば大丈夫。
ぜひ、赤ちゃんが今しか見せない動きを楽しむつもりで、0歳の期間を過ごしてくださいね。
監修
杉原 桂 先生
医療法人社団縁風会 理事長
ユアクリニック秋葉原 院長
昭和大学病院 小児科、千葉県こども病院 新生児未熟児科、独立行政法人国立病院機構相模原病院 小児アレルギー科などで研鑽を積み、ユアクリニックお茶の水 院長を経て、2019年よりユアクリニック秋葉原 院長。診断・治療という手段を通じて、患者さんたちを幸せにするという想いで診療にあたっている。ほか、医療系大学での講義も。
医療法人社団縁風会 理事長
ユアクリニック秋葉原 院長
昭和大学病院 小児科、千葉県こども病院 新生児未熟児科、独立行政法人国立病院機構相模原病院 小児アレルギー科などで研鑽を積み、ユアクリニックお茶の水 院長を経て、2019年よりユアクリニック秋葉原 院長。診断・治療という手段を通じて、患者さんたちを幸せにするという想いで診療にあたっている。ほか、医療系大学での講義も。